「ワシらの村で1番頭の良いたろべえが、町に行くそうじゃぞ」
「そらそうやろな。たろべえはうちらとデキがちごうとる」
「あいつは「すうがく」いうんが、良くできるらしい」
「学のないうちらには、まったくわからん世界だけどもな」
「おお、たろべえ。街に行くらしいな、いつもの「すうがく」やってくれ!」
「いいですよ。「1+2=3」です」
「おお、すごいのぅ。毎回聞いとるが「イチタスニワッサン」せや、せや。感動するなぁ、さすがたろべぇじゃ」
「もう1つくらいあるのかい?」
「ありますよ。「1+2=1」です」
「おぉ、イチタス、ニワイチ!かぁ。ワシもこれで賢くなった」
「後、もう1つあります、「4+1=3」です」
「ヨ・・ヨンタス、イチワッサン・・こらまた難しい言葉だのぅ、たろべぇはよく覚えられるのぅ」
「たろべぇなら、街に出て、アタマの良い連中と競っても負けねえじゃろな」
「なぁ、たろべぇ、おまえさんがよく言ってる「イチタスニワッサン(1+2=3)」だけんども・・そんな言葉があるかはわからんけども、例えばだけども「ニタスイチワッサン(2+1=3)なんていうのもあるんだべか?」
たろべぇは少し考えた。
「そんな「すうがく」はないですよ。聞いたことがないものです」
「そうか、ニタスイチワッサンはないのか、むずかしいのぅ、ほかにはないのか?」
「あるかもしれません。でも僕は、まだ3つしか覚えていないんです、だから、町に行ってもっとたくさんの「すうがく」を覚えてこようと思ってます」
「おぉ、たろべぇなら、そら、たくさんの「すうがく」を覚えてこれるじゃろうなぁ」
たろべぇは、この後、町に勇んで出て行ったが、その後の彼を知るものはいない。
たろべぇがこの村に伝えた「イチタスニワイチ」「ヨンタスイチワッサン」という言葉は、しばらくこの村に残り続け、正しいとされていた。